有害化学物質とはどのようなもの? 対策方法や衛生管理者の役割は?
有害化学物質とは、人体や環境に悪影響を与える化学物質の総称です。現在、築地市場の移転先である豊洲で問題になっているのも、有害化学物質の一種になります。また、公害病の原因も有害化学物質であり、現在は環境省が中心となって対策が取られているのです。職場で有害化学物質を取り扱う場合は、労働安全衛生法に基づいて対策が行われます。
そこで、今回は有害化学物質の対策について解説しましょう。
この記事を読めば、対策方法の具体例なども分かります。衛生管理者を目指している方も、ぜひ読んでみてくださいね。
1.有害化学物質の基礎知識
はじめに、有害化学物質の種類や問題点、使用している職場などを紹介します。どのような物質なのでしょうか?
1-1.有害化学物質って何?
有害化学物質とは、前述したように人や環境に悪影響を与える物質の総称です。「化学」と名がついていますが、環境ホルモンや重金属も有害化学物質に含まれます。有害化学物質は公害の原因になるほか、土壌や河川を汚染すると長年にわたってそこに住む人や動植物に悪影響を与えるのです。
1-2.有害化学物質の種類
有害化学物質は、重金属・残留性有機汚染物質・環境ホルモンの3種類に分類されます。重金属は、有機水銀やカドミウム・銅・プルトニウムなどが代表的なものです。水俣病・イタイイタイ病などの公害病は、重金属が原因となって発生します。また、日本最初の公害として有名な足尾鉱毒事件も、鉛や銅イオンなどの重金属が原因です。
残留性有機汚染物質とは、長い間分解しない物質や生物の体や土壌に蓄積する物質が分類されています。PCB(ポリ塩化ビフェニル化合物)やダイオキシン・塩素系農薬が代表的な物質です。
環境ホルモンとは、正式名称を内分泌攪乱物質(ないぶんぴつかくらんぶっしつ)と言い、生体にホルモン作用を起こしたり、逆にホルモン作用を阻害したりする物質を指します。主に内分泌系に影響をおよぼし、アレルギーや子宮内膜症・不妊などを引き起こし、問題となっているのです。
1-3.有害化学物質を使用する業種について
有害化学物質は、化学工場・鉱山だけでなく農業や医薬品メーカーなどでも使われています。また、ダイオキシン類はプラスチックに代表される石油製品を燃焼させても発生するため、ごみ処理工場などでも発生の危険性があるのです。さらに、工業製品を廃棄する場合も、有害化学物質が流出する恐れがあるでしょう。
1-4.有害化学物質の問題点
有害化学物質は、長い間土壌や水中に留まり、周囲を汚染し続けます。たとえば、足尾鉱毒事件は明治時代に発生しましたが、2011年に東日本大震災が発生した時、事件が発生した渡良瀬川(わたらせがわ)下流の流域から基準を超える鉛が検出されて問題になりました。
また、有害化学物質の中には生物の体に蓄積されるものもあり、食物連鎖による生物濃縮も大変な問題です。生物濃縮とは食物連鎖を経るうちに有害物質が濃縮していくことで、上位捕食者ほど化学物質濃度が上昇します。つまり、有害化学物質に汚染された土や水のある場所で生きている生物(植物)を人が食べると、より高濃度の化学物質を体内に取り入れてしまうのです。
2.有害化学物質の管理について
この項では、有害化学物質の管理について解説します。どのような管理方法が行われているのでしょうか?
2-1.有害化学物質に関する法律
有害化学物質は、人体に悪影響がある一方で産業に欠かせない物質もたくさんあり、取り扱っている職場は決して珍しくありません。そのため、労働安全衛生法や労働安全衛生規則によって取り扱い方が定められています。
また、現在は有害化学物質を垂れ流している工場はありませんが、それでもわずかな量は漏れだしてしまうこともあるでしょう。そのため、ダイオキシンをはじめとする有害化学物質を取り扱っている工場は、公害防止管理者を選任し、定期的に水や空気を検査することを義務づけられています。これらを定めた法律が、「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」です。
2-2.管理について
有害化学物質の管理は、各工場や職場ごとに行われることが一般的です。有害化学物質の中には危険物や毒劇物に指定されているものも多いため、そのような物質は危険物取扱者など有資格者が管理します。また、工場の責任者は一定の量以上の有害化学物質を製造したり取り扱ったりしている場合、その量を正確に把握していることが必要です。
なお、厚生労働省は平成28年に労働安全衛生法が改正されたことを受けて、リスクアセスメントの実施を推奨しています。化学物質リスクアセスメントとは、化学物質の危険性や有害性の程度を憶測し、リスクの低減対策を行うことです。具体例としては、有害化学物質を保管してある容器に、分かりやすいラベルを張ることなどがあげられます。また、安全教育もリスクアセスメントの一種です。厚生労働省から、リスクアセスメントに関するpdfが公開されていますので、参考にしてください。
2-3.衛生管理について
有害化学物質を取り扱っていたり製造していたりする職場では、従業員もその危険性について知っておく必要があります。そのため、衛生管理者や安全管理者が安全衛生教育の一環として、有害化学物質の特徴や危険性・取り扱い方を教育することが大切です。また、有害化学物質を取り扱っている会社では、従業員に半年に1度の割合で健康診断を受けさせ、健康に問題がないかどうか確かめなければなりません。
衛生管理者は、最低でも週に1回は職場巡視を行い、有害化学物質が適切に管理されているかということや従業員の健康に異常はないか確認しましょう。従業員が体調の不良を訴えた場合は、産業医に診察をしてもらうなど対処が必要です。また、必要ならば経営者に相談をして対策をしてもらいましょう。
3.衛生管理者とはどのような資格?
衛生管理者とは、従業員が健康を保持しながら衛生的に働き続けられるよう、職場環境を整える職務を担うことができる国家資格です。職種にかかわらず、50名以上の従業員が所属している事業所には選任が義務づけられています。衛生管理者には1種と2種があり、有害化学物質を製造したり取り扱っていたりする業種は、第1種衛生管理者が職場の衛生管理を行うのです。
ちなみに、第2種衛生管理者は小売業など危険が少ない職場の衛生管理を行うことができます。
衛生管理者の資格を取得する方法や役割などは、こちらの記事にも詳しく記載されていますので、ぜひ参考にしてください。
4.有害化学物質対策に関するよくある質問
Q.有害化学物質に土壌が汚染されてしまった場合は、どのように対策をしたらよいのでしょうか?
A.土を全部入れ替えるしかありません。莫大なお金と時間がかかります。
Q.鉱山の近くはどこでも有化学物質に汚染されている可能性があるのでしょうか?
A.歴史ある鉱山の周囲は一部土壌が汚染されていることもありますが、周囲に住宅などはほとんどないので過剰に心配する必要はありません。
Q.ダイオキシン対策にはどのような手段が用いられているのでしょうか?
A.高温でプラスチック類を燃やすことでダイオキシンの発生を防ぎ、さらに特殊なフィルターなどを煙突内に設置しています。また、公害防磁管理者が定期的に大気汚染度の測定をしているので安心です。
Q.現在は有害化学物質が原因の労働災害は発生しているのでしょうか?
A.はい。残念ながら毎年100件を超える労働災害が発生しており、その原因の多くがヒューマンエラーです。
Q.有害化学物質が原因の労働災害が発生した場合、衛生管理者の役割はなんでしょうか?
A.安全管理者と共に労働災害の原因を確かめ、再発防止に努めます。また。労働基準監督署へ提出する書類を作成するのも仕事です。
5.おわりに
いかがでしたか? 今回は有害化学物質の対策などについて解説しました。前述したように現在では、有害物質をそのまま垂れ流すような施設は皆無です。その分、労働災害はヒューマンエラーが原因のものが中心となっています。有害物質による健康被害を防ぐためには、安全衛生教育が大切です。