安全管理者と衛生管理者との違いは? 兼任することは可能?
従業員は、安全かつ衛生的に労働をする権利があります。職場の安全管理や衛生管理を行う役割を担っているのが、衛生管理者と安全管理者です。安全管理者や衛生管理者の職務はとても大切なものですが、職務内容がよく分からないという方もいるでしょう。また、衛生管理者と安全管理者との兼任はできないのか? と考えている方もいると思います。
そこで今回は、衛生管理者と安全管理者の職務内容や、兼任が可能かどうかということをご説明しましょう。
職務内容や専任の条件が分かっていれば、なりたいという方の参考にもなります。衛生管理者と安全管理者の職務内容や、兼任が可能かどうか知りたい方は、ぜひこの記事を読んでみてくださいね。
1.安全管理者とは?
この項では、安全管理者に選任される条件や職務内容をご紹介します。どのような職務を担っているのでしょうか?
1-1.安全管理者が必要な職場
安全管理者とは、職場の安全全般を管理する人です。林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業・製造業などの職場で、常時50人以上の従業員を雇用しているところは選任が法律によって義務付けられています。といっても、従業員が50人未満の職場は安全管理をしなくてもよいというわけではありません。常時10人以上50人未満の従業員を雇用している職場は、安全衛生推進者を選任する必要があります。
1-2.安全管理者の職務
安全管理者は、
- 職場の建物・設備・作業方法などの安全確認と危険が生じた場合の応急処置
- 従業員への安全教育
- 安全装置や保護具などの事故防止の為に使用する器具の定期点検
- 消防及び避難の訓練
- 労働災害が発生した場合、原因を調査して対策を立てる
- 安全に関する資料の作成や重要事項の記録
などが主な職務です。危険度が高い職場ほど、安全管理者の責任は大きくなります。なお、安全責任者の選任人数は決まっていません。ですから従業員が数百人規模の職場でも安全管理者が1人という職場もあれば、複数人で作業を分担する職場もあります。危険度が少ない職場でも、従業員の人数が多ければ安全管理者の仕事は忙しくなりがちです。
1-3.安全管理者になるには?
安全管理者になるためには、労働安全コンサルタントの資格を取得するか、一定期間の実務経験を積んだ後に厚生労働大臣が定める研修を修了する必要があります。研修は、厚生労働省に登録した民間の業者が請け負っており、全国で受講が可能です。研修の長さは2日間で、必要経費は1万円~1万5千円となっています。
実務期間の長さは、理科系の大学・高等専門学校の過程を卒業した方で2年・同じく高校で理科系の過程を選択し、卒業した方で4年・理科系以外の課程の中学・高校・大学を卒業した方は4年~7年です。
2.衛生管理者とは?
では次に、衛生管理者に選任されるための条件や資格・選任が義務付けられている職場・仕事内容をご紹介します。安全管理者と何が違うのでしょうか?
2-1.衛生管理者の定義と選任が義務付けられている職場
衛生管理者とは、従業員が安全に衛生に仕事ができるように職場環境を調えたり従業員の健康を管理したりする者です。法律によって常時50人以上を雇用しているすべての職場に選任が義務付けられています。ですから、50人以上の従業員がいる職場ならば安全管理者の選任は義務付けられていないところでも、衛生管理者の選任は絶対に必要です。
ちなみに、従業員の勤務形態は問われません。正社員1人にパートやアルバイトが49人の職場でも選任が必要です。また、事業所に常時ほとんど人がいない場合でも、書類上50人以上の従業員が所属している場合は選任が必要になります。
2-2.衛生管理者の職務内容
衛生管理者の職務内容は
- 毎週1回職場を巡視し、従業員の健康に悪影響を及ぼす事例を発見した場合は、すぐに措置を考える。
- 職場の健康診断の日程を決め、告知する。
- 健康診断の結果を管理する。
- 従業員の健康相談に乗り、必要があれば産業医との橋渡し役を務める。
などがあります。
2-3.衛生管理者と安全管理者の違い
衛生管理者は、職場で働く従業員の健康や衛生管理を行い、安全管理者は職場の安全管理を行います。2つの職務についている方がそれぞれの職務を全うすることにより、従業員は安全な職場で衛生的に働くことができるのです。
安全管理と衛生管理は共通する部分も多いため、お互いに協力して職務を行うことも多いでしょう。また、職場によってはより安全で衛生的に仕事を行うために衛生管理者・安全管理者が中心となって安全衛生委員会が法律で義務付けられています。
2-4.衛生管理者の種類と専任の条件
衛生管理者には1級と2級があります。1級はすべての職場で衛生管理を行うことが可能です。2級は、小売業や通信業など比較的危険が少ない職場の衛生管理を行うことができるます。
衛生管理者になるには、
- 大学で工学か理学に関する課程を修めて卒業し、厚生労働省の定める研修と修了試験を受ける。
- 一定期間労働衛生に関する実務経験を積み、資格試験に合格する。
- 歯科医師・医師・薬剤師・保健師等の資格を取得し、必要な書類を労働基準監督署に提出する。
- 労働コンサルタントの資格を取得する。
などの方法があります。実際に労働衛生の職務についている方はそのまま実務経験を積んで試験に合格するのが一番の早道です。安全管理者のように研修を受ければなれるものではないので、難易度は衛生管理者の方が高くなっています。
3.総括安全衛生管理者とは?
総括安全衛生管理者とは、職場の安全管理者や衛生管理者をまとめて総括する職務です。法律により、一定数の従業員を雇用している職場に選任が義務付けられており、主に工場長などの管理職が職務につきます。衛生管理者の仕事を統括する役割も担っていますが、衛生管理者の資格を有している必要はありません。
その名前から、衛生管理者と安全管理者の仕事を兼ねて行う職務と思われることもありますが、職務内容は異なります。
4.衛生管理者と安全管理者の兼任について
この項では、衛生管理者と安全管理者の兼任か可能かということや、実際に兼ねる場合の注意点などをご紹介します。兼任を目指している方は参考にしてください。
4-1.衛生管理者と安全管理者の兼任は可能か?
結論から先に述べると、可能です。法律上は問題ありませんが、推奨はされていません。また、名目上は兼任していても実務は別の人が担当することもあります。
4-2.実際に兼任をした場合の問題点
4-2-1.職務の量が多すぎる
安全管理と衛生管理のどちらか片方だけならば、他の業務と兼任して行うことも可能です。しかし、安全管理も衛生管理も行うとなると、他の業務にまで手が回らなくなることもあります。安全管理と衛生管理だけ行っていればよい、という職場もありますが、多くの職場では他の業務をこなしながら安全管理や衛生管理を行っていることが多いでしょう。そうなると、必然的に安全管理や衛生管理がおろそかになりがちです。
4-2-2.責任が重すぎる
職場で労働災害が起こった場合、原因を調べて対策を立てるのが安全管理者や衛生管理者の役割です。また、労働災害にはケガや事故だけではなく病気も含まれます。兼任をしていると職場で事故が起こった場合や従業員がけがをした場合、職務内容が原因で従業員に病気が発生した場合の責任が、経営者と安全管理者・衛生管理者を兼任している方にかかるのです。1人で背負うには重すぎます。
4-2-3.行政指導が入る可能性がある
前述したように、衛生管理者・安全管理者を兼任すること自体は違法ではありませんが、推奨もされていません。ですから、従業員を50人以上雇用している職場で、衛生管理者と安全管理者を1人が兼ねている場合は、行政指導が入る可能性もあります。
4-3.実際に兼任する際の注意点
とはいえ、職場の事情でどうしても衛生管理者と安全管理者を兼ねなければならないというケースもあります。この場合は、実務を行う方を複数作っておくとよいでしょう。衛生管理者や安全管理者になるには試験を受けたり研修を修了したりしなければなりませんが、実務は無資格者でも行えます。また、実務経験を積めば試験の受験資格や研修の受講資格を得られるのです。
5.衛生管理者・安全管理者に関するよくある質問
Q.衛生管理者・安全管理者の年齢制限はありますか?
A.ありません。何歳でも選任することは可能です。
Q.衛生管理者・安全管理者にはパートやアルバイトでも就くことができますか?
A.法律上問題ありませんが、パートやアルバイトが実際に就くケースはあまりありません。
Q.衛生管理者の資格試験は難しいのでしょうか?
A.国家資格を紹介するサイトなどでは、難易度は普通に設定されています。問題集や過去問を使って独学でも合格できるレベルです。また、試験日も毎月あるので、比較的合格しやすい資格といえます。
Q.新卒で衛生管理者になることは可能ですか?
A.工学科や理学科で所定の単位を取り、研修に参加して修了試験に合格すれば、新卒でも有資格者になれます。それ以外は、実務経験が必要なのでまずは労働衛生の実務経験を積んでください。
Q.安全管理者を複数選任し、1人が衛生管理者を兼ねることはできますか?
A.衛生管理者の資格保持者がいれば可能です。
6.おわりに
いかがでしたか? 今回は、衛生管理者や安全管理者の職務内容や兼任は可能かどうかについてご説明しました。衛生管理者が安全管理者を兼ねる場合は、実務の配分具合などをよく定めてから兼任しましょう。1人で何もかも背負い込めるほど、簡単な職務ではありません。また、経営者も、兼任をできるだけ早くやめる努力をした方をしましょう、労働災害が起こってからでは遅いのです。特に、危険度が高い職場ほど、衛生管理者・労働管理者の責任は重くなります。可能な限り専任してください。