3分でわかる労働基準監督署の基礎知識
サラリーマンでも雇い主でも仕事をしている以上、きちんと知っておきたい公的機関のひとつは労働基準監督署です。しかし、いつ何のために利用すればよいのかが、あまりピンとこないということはありませんか。とはいっても、今さら人に尋ねるのも恥ずかしいと感じるかたのために、労働基準監督署とその役割についての基本情報をまとめてみました。
1.労働基準監督署の役割とは
1-1.労働基準監督署は働く人の味方
労働基準監督署は「労働法の警察」と呼んでもよいでしょう。働く人が法に守られた環境で働くことができるように監督しているのが労働基準監督署の仕事です。昨今、劣悪な労働環境を強いている企業が「ブラック企業」と呼ばれて問題になっています。そのような企業を摘発し、懲らしめてくれるのが労働基準監督署というわけです。もちろん、一方的に企業側を敵にしているわけではありません。労働基準法がしっかりと適用されていれば、企業側は労働基準監督署を恐れる必要はないのです。
1-2.逮捕もできる労働基準監督署
もし明らかに労働基準法が守られていないなどの違反行為があった場合には、労働基準監督署はその問題を正すために行動します。労働法に関する違反行為が明らかになったなら、労働基準監督署は通常、その企業に指導や是正勧告を行うわけです。しかし、中には悪質な企業があることも事実でしょう。そこで、労働基準法違反があることをしっかりと証明するために、労働基準監督署には強制捜査を行うことや裁判所からの権限で強制執行をする権利も与えられているのです。また、明らかに悪質な労働基準法違反があれば、労働基準監督署はそのような経営者を直接逮捕をする権限さえあります。このような権利が、労働基準監督署が「労働法の警察」と呼ばれる理由なのです。
1-3.労働基準監督署がしないこと
「労働法の警察」である労働基準監督署には「民事不介入」の原則があります。この点では、一般の警察とも同じ姿勢であるわけです。仕事に関係することとはいえ、労働契約の中身や契約更新や打ち切り、懲戒処分に関する不服などは、あくまで個人と会社との契約の中でのことになります。こういった民事の問題には、労働基準監督署が介入しない場合が多いようです。とはいえ、まったくそのような種類の相談にのってくれないというわけではありません。個人で労働基準監督署が介入してくれる種類の状況なのかどうかを判断するのが難しい場合もあるでしょう。簡単な相談は電話でも受け付けてくれます。まずは相談してみることもひとつの方法です。
2.労働基準監督署の構成
2-1.監督課の役割
労働基準監督署にはさまざまな部署があるので、どの課が何を担当しているかがわからなくなることもあるでしょう。それでは、ここで労働基準監督署の主な3つの課についてその役割をご紹介します。まず監督課ですが、労働条件に関する相談や違反の報告などを受け付けるのがこの部署です。実際に、司法警察として企業への調査や捜査を行うのもこの監督課となっています。場合によっては経営者が労働基準監督署に呼び出されることもありますが、そのような呼び出しを実施して出頭を命じるものこの監督課です。まさに「労働法の警察」の中心部分と言えるでしょう。
2-2.安全衛生課の役割
同じように企業と密接な関係を持つのが安全衛生課です。安全衛生課は働く人が安全で健康的な環境で業務を行えるよう指導や確認を行う部署となっています。たとえば、従業員が50人以上いる事業所の場合には健康診断を実施して、その結果を労働基準監督署に報告しなければなりません。その報告を受け付けるのが安全衛生課です。ほかにも現場機械の検査や化学物質の取り扱いについて監督や確認をすることも安全衛生課の業務となっています。全般的に安全や健康に関することに関しては、安全衛生課が担当していると覚えておけば間違いないでしょう。
2-3.労災課の役割
もうひとつの重要な労働基準監督署の部署は労災課です。労災課では、労災の報告に基づいて、保険給付を行うための様々な手続きや調査をします。たとえば、労働者が通勤途中での事故や業務中に負傷をするなどが生じたとしましょう。労災課はそのような業務において発生した事故などに対して、労働者災害補償保険法が正しく適用されるために必要な調査を行ってくれるのです。ここで間違わないようにしたい点ですが、労働基準監督署や労災課はハローワークとは関係していません。ハローワークは失業保険の給付や申請、求人の紹介などを扱っていますが、労災関連を扱うのは労働基準監督署の労災課というわけです。仕事がないときにいくのがハローワーク、仕事をしているときの問題は労働基準監督署と考えてもよいでしょう。
3.労働基準監督署が行う調査内容とは
3-1.定期監督とは
企業側としては、労働基準監督署がどのような調査を行うのかという点に強い関心があるでしょう。労働基準監督署が行う調査には主に「定期監督」と「申告監督」という2つの種類があります。まず「定期監督」ですが、この調査は労働基準監督署が主導して行うものであり、ランダムに選ばれた企業への調査です。特に問題がなくても定期的な確認として行う性質のものであるため、定期監督の対象になってもこわがる必要はありません。多くの場合は、実際に労働基準監督署の担当者が企業を訪問することはなく、必要な資料を持って企業の担当者が労働基準監督署に呼び出されることになっています。主に長時間労働がよくあるようなサービス業などがターゲットにされやすいようです。心当たりがある事業内容であれば心の準備をしておきましょう。
3-2.申告監督とは
従業員などの申告に基づいて行なわれる調査が「申告監督」です。この調査はすでに何らかの申告があってから計画される調査であるため、厳しい調査であると言われています。また、実際に証拠を確認するために「臨検(りんけん)」と呼ばれる立ち入り検査を行なうのが通例です。この立ち入り検査は事前の通知なく行われることもあり、従業員への尋問や帳簿などの書類調査も行われます。労働基準監督署も裏付けとなる証拠があるからこそ立ち入り検査をともなう「申告監督」に踏み切るのです。ですから、その際にはすべてを正直に見せ、必要な調整を甘んじて受ける必要があるでしょう。
3-3.調査で提出が求められる資料
定期監督であれ申告監督であれ、ほとんどの場合労働基準監督署は調査のために会社の書類の提出を求めます。ですから、普段からきちんと必要な書類を整えていくことが大切でしょう。主に提出が求められる書類は、出勤簿、賃金台帳、労働者名簿、雇用契約書または労働条件通知書、就業規則そして労使協定です。このような書類は調査があることがわかってから作りあげて整えることなどはできません。あわてて繕(つくろ)った体裁の書類は結局あとでバレてしまいます。多少の誤記などは問題ありませんが、悪質な怠慢は厳しい処罰の対象にもなりかねませんので注意しましょう。
まとめ
労働基準監督署は労働者を保護するためのものですが、間接的には企業が法に準じた長く続くよい経営ができるよう助けるために働いています。
働く立場として、また企業側として知っておくとよいのは、
- 労働基準監督署は「労働法の警察」
- 仕事に関する問題があればいつでも相談できるが民事不介入
- 労働基準監督署の調査には素直に応じる
といったことでしょう。
労働基準監督署の助けも得ながら、企業側も働く立場としてもよい協力のもと、快適な働く環境を作りあげていきたいものです。